玉城絵美氏のボディシェアリング技術の医療可能性を理学療法士が解説

いま玉城 絵美 氏がヒトの感覚から研究する『ボディシェアリング技術』に注目が集まっています。

ボディシェアリング技術は社会全体に多大な貢献をもたらすものであり、理学療法士である筆者は医療やリハビリテーション領域とその技術可能性にも注目しています。

本記事ではそんなボディシェアリング技術のこれからと医療分野の可能性について考察していきます。

 目次

ボディシェアリング技術を知る

H2L代表 玉城絵美氏とは

玉城 絵美 氏は『unlimited hand』や『FirstVR』といったデバイスを開発され、それら『ボディシェアリング』を研究されている研究者です。

現在はH2Lを起業され、その代表も務められています。

また、ご自身も革新的な技術開発を継続される傍ら、イノベーターズアンダー35ジャパンで審査員をされるなど、日本の技術革新を促進する人物としても注目されています。

そのほか過去には『TIME』誌の『The 50 Best Inventions』にも選ばれ、その研究者としてのスケールは日本にとどまらず、世界からも注目を集めています。

とあるメディアのインタビューでは少し先の未来に『マルチスレッド・ライフスタイル』を掲げておられ、2029年までに成約のない体験共有社会の実現を計画されているとのこと。

ちなみに現在は琉球大学の教授も務められています。

起業家、教授と多方面に活躍される玉城氏。

さて、そんな玉城氏の開発したデバイス『unlimited hand』や、ボディシェアリング技術についてもう少し紐解いていきたいと思います。

unlimited handなどボディシェアリング技術とは

『unlimited hand』に関しては、バイオメカニズム学会誌に玉城氏が執筆された論文が掲載されています。

【玉城 絵美:VR 環境における体性感覚刺激の提示方法,バイオメカニズム学会誌, Vol43.No1.2019】

論文の中でunlimited handは

□ 手指からコンピュータへのジェスチャ入力機能
□ コンピュータから手指への触感フィードバック(ジェスチャ出力)

を実現するデバイスであると紹介されており、入力と出力の双方を兼ね備えたインタラクティブな装置であると紹介されています。

つまり画面上のアバターなどを操作するだけでなく、フィードバックにより自身へ感覚と伝わることで臨場感、没入感を実現できるデバイスとして機能します。

そしてそれは空間、時間の成約を超えた経験を共有できる装置といっても過言ではありません。

空間や時間の制約を超えた経験を共有できる

ご自身もメディア出演されたとき、『ボディシェアリング技術を使えば時間を2倍、3倍も使える』とおっしゃっていたのが印象的でした。

この発言が『時間や空間制約と超える』という意味を理解するカギとなります。

たとえば従来であれば、自身が歩んでいたであろう人生のみの体験、経験値は一人分です。

ですがunlimited handに代表されるボディシェアリング技術を用いれば、自身ではない誰かの体験や経験、それに伴う感覚を得ることも可能とされています。

それは言うなれば『自分一人以上の体験、経験を獲得することが出来る』とも捉えることが可能であり、二人分あるいは三人分…という風に時間、空間を超えた体験が出来るとも言えるかもしれません。

そんなテクノロジーを理解して、享受することが出来れば、なかなか楽しそうな未来が実現できそうですね。

さて、そんなボディシェアリング技術、それを実現してくれるデバイス『unlimited hand』ですが、理学療法士である筆者はその医療的可能性に興味を持ちました。

次章では、障碍者の方々と一緒にリハビリテーションに取り組む理学療法士の筆者が、unlimited handの臨床における可能性について紹介していきます。

ボディシェアリングとリハビリテーション

ボディシェアリングと医療可能性

unlimited handに代表されるボディシェアリング技術である

□ 手指からコンピュータへのジェスチャ入力機能
□ コンピュータから手指への触感フィードバック(ジェスチャ出力)

は医療的応用が可能であると筆者は考えます。

ちなみに玉城氏が代表を務めておられるH2Lのプレスリリースにおいて、脊髄損傷をはじめとする神経障害を有する患者様へ向けて、ボディシェアリング技術の共同開発を進めているとも発表されています。

さて、この身体への『入力』と『出力』をつかさどるボディシェアリング技術。

理学療法士である筆者はリハビリテーションととても相性が良いデバイスであると考えています。

その理由はヒトを始めとする動物は『入力』と『出力』による『運動学習』により、それぞれが必要な動作や運動プログラムを立てていくためです。

ここでいう入力とは『感覚』。unlimited handではコンピュータから手指への触感フィードバックにより、その感覚をヒトの身体へ入力してくれます。

また、ここでいう出力とは『動作』。unlimited handではジェスチャ出力として動作が出力されます。

くわえてコンピュータを介した入力が可能なので、ヒトからの入力に依存しない再現性ある入力と出力も可能であると筆者は考えます。

つまりunlimited handに代表されるボディシェアリング技術は、その入出力機構により『運動学習』を促進して、リハビリテーションにおける治療へ多大な貢献をもたらすものと考えられます。

さて、そんなリハビリテーション治療デバイスについてですが、従来より神経系リハビリテーションデバイスに『IVES』といったものもあります。

筆者も理学療法士として、脳卒中患者様への神経系リハビリテーションデバイスとしてIVESをよく利用しています。

次章ではIVESと臨床適用をよく知る筆者が、ボディシェアリング技術の臨床可能性とその差異について考察していきます。

治療器具IVESとボディシェアリングの差異

リハビリテーションで用いられる治療器具『IVES』。

IVESは治療的電気刺激(therapeutic electrical stimulation;TES),機能的電気刺激(functional electrical stimulation;FES)の双方を兼ね備える優れた治療器具です。

TESは脳卒中や脊髄損傷における痙性からの筋緊張の軽減,関節可動域を拡大,随意的な筋力の向上,廃用症候群予防などの目的で使われる電気刺激。

FESは実際の動作の中でタイミング良く行う電気刺激。たとえば目の前のボールを掴むといった動作をする際、その筋出力をコントロールする際に用いられることがあります。

そんなIVESの治療効果を発揮する原理のひとつが『筋活動電気の読み取り、それに応じた電気刺激』にあります。

これはたとえば脳卒中患者が『ボールを掴む』といった課題に挑むとき、『手を開く』『ボールを掴む』といった動作をうまくできないとき、それらの動作をIVESはサポートしてくれる可能性があります。

ヒトは手を開くとき『総指伸筋』と言われる筋肉で指を伸ばしたり、ボールを掴むとき『浅指屈筋、深指屈筋』と言われる筋肉で指を曲げたりすることでその動作を実現します。

脳卒中患者ではそれら筋肉への運動指令がうまくいかない場合があります。

そんなときそれら筋肉への運動指令、出力調整をサポートしてくれるのがIVESというわけです。そしてIVESをからめながら目指す運動を反復することで、必要な動作を獲得するのがリハビリテーションの目的になります。

ちなみにボディシェアリングで用いられるデバイスは、『位置覚』や『運動覚』と言われる固有感覚(深部感覚)の共有に着目した技術であると玉城氏はおっしゃっています。

位置覚や運動覚とはざっくり言えば、『手を上げる』『膝を曲げる』といったことを認識できる感覚です。

たとえばヒトは目を瞑って視覚を遮断しても、自身の置かれている手の位置や膝関節の曲げ伸ばしの状態がある程度把握できます。これらは位置覚、運動覚によってもたらされる感覚の一部です。

ボディシェアリングはそれら位置覚、運動覚の存在に着目。そしてその感覚を利用できるように、筋肉の筋腹のふくらみ加減を赤外線センサーで検知する技術を採用しているとのことです。

また、位置覚や運動覚から各筋肉のふくらみ具合、そしてその筋肉からもたらされる動きも再現できることから、ボディシェアリングは出力装置としても機能するといった原理を持っています。

理学療法士である筆者がこの原理から導き出せるのは、『セラピストの感覚と動きを、脳卒中患者と細かく共有できる』可能性があるということ。

従来のリハビリテーションでは、徒手的な部分での介入において、セラピストが誘導したい手の動きと脳卒中患者が出力する手の動きの乖離が目立ちました。

ですがボディシェアリングが電気信号によって、セラピストが誘導したい手の動きとその感覚を、脳卒中患者と共有することが出来ればその乖離を減らすことが可能となります。

なのでボディシェアリング技術はIVESと比肩し、そしてリハビリテーションの可能性を大きくアップデートしてくれるデバイスになると筆者は期待しています。

認知運動療法とボディシェアリング

筆者がボディシェアリングに注目する理由はもうひとつあります。

それは自身が理学療法士として『認知運動療法』をひとつのベースとして学び、それを患者様へ還元してきたというところがあるからです。

認知運動療法では『感覚』、『言語化』、『運動』といったループを重要視します。

ボディシェアリングはその『感覚』を共有できるという点で、認知運動療法の観点からもとてもよく出来た技術だと認識しています。

感覚がなぜ大事か。

それは感覚によりヒトは『環境』や『世界』を認識して、それに必要な行動を『言語化』し、実際の『動作』へと移ります。

なので感覚はヒトが運動学習を通じて動き、生活をする上で根幹を担う重要な要素です。

ボディシェアリングはヒトが生活をする、そして障碍者となった方々が生活を再建していく上で、重要な要素である感覚を共有させてくれる革新的な技術であるとも言えます。

もっとスケール出来るボディシェアリング

牛になれる可能性もあるボディシェアリング

自身がもうひとつ衝撃を受けたボディシェアリング技術の解説に『牛になれる』といったパワーワードがあります。

誤解のないように言っておくと『牛になれる』とは、牛の感覚をボディシェアリング技術を用いて追体験できるということです。

個人的には開発者である玉城氏が牛の姿勢を取り、おなかにデバイスを取り付けて技術体験されている画がなかなか良かったように思います。

玉城氏の体験後のインタビューでは『すぐに立つことが出来なかった』とも言われており、その発言からホントに牛の感覚がもたらされ、脳の体性感覚が牛のものに書き直されたのではないかなと考えさせられたりもしました。

これも誤解の無いように言っておくと、筆者の仮説であり妄想なところもあるのであしからず。

ですが、このデバイスの可能性の主語が『ヒト』のみならず『動物全体』であるというところにスケールの大きさを感じさせられます。

自身は理学療法士という医療者なので医療的見地からこのデバイスの可能性を考えてしまいますが、おそらくボディシェアリングはそんな医療分野にとどまらない大いなる可能性を秘めていると思います。

AIやロボティクス領域とボディシェアリング

今後はこのボディシェアリング技術がAIやロボティクス領域にもどんどん応用されていくと考えています。

ボディシェアリング技術によりヒトの固有感覚を電気信号としてパソコンへ入力されれば、その固有感覚でもたらされるであろう手の動きなどをロボットへフィードフォワードすることが出来ます。

またそれら固有感覚をもっと多くデータ収集して、ビッグデータとして活用できるかもしれません。

そうすればAIにおける機械学習とリンクして、もっとシームレスなロボティクス技術へと転用できることでしょう。

たとえばそれは教師なし学習であったとしても、AI自体が固有感覚から導き出される最適な動作などを出力できる可能性もあります。

そんな感じでボディシェアリングから大きなイノベーションの可能性を感じずにはいられません。

これからもその技術と社会との接点に注目していきましょう。

ボディシェアリング技術からもたらされる未来とその可能性を模索していこう。