内閣府ムーンショット目標のロボ技術可能性を医療福祉従事者が考察。

『介護』や『育児』へ提言のなされる内閣府のムーンショット目標。

介護分野への言及もあり、理学療法士として医療福祉介護分野で働く筆者として気になったので、そのムーンショット目標を考察してみました。

本記事ではそんなムーンショット目標における生活、働き方の未来について詳しく解説します。

 目次

ムーンショット目標を知る

ムーンショットとは

moon shotということばに、みなさんは何を連想されるでしょうか。

人によっては『月に何か飛ばすのかな』、『月面着陸を改めて計画してるのかな』といったことを連想されるかもしれません。

ムーンショットとは、端的に言えば月に向かってロケットを飛ばすといった意味で正解です。その意味でアメリカ第35代大統領であるJ・F・ケネディ氏が提唱したアポロ計画をご存じの方も多いのではないでしょうか。

ですが今回紹介する意味のムーンショット計画は、『非常に難しいが、実現すれば多大な効果を期待できる大きな研究や計画』を意味します。

特に最近のビジネス用語としては、そのような文脈でよくムーンショット計画というものが使われるようになりました。

さて、そんなムーンショット計画。

昨今では内閣府が『ムーンショット目標』を提唱しており、その内容が公開されています。

内閣府の掲げるムーンショット目標

こんな感じで内閣府ウェブサイトではムーンショット目標を公開しています。

出典:内閣府 ムーンショット目標

たとえばこれは内閣府のムーンショット目標1の公開内容です。

その目標は2050年までに人が身体、脳、空間、時間の成約から解放された社会の実現と銘打たれています。

またターゲットの概要として

□ 複数の人が遠隔操作する多数のアバターとロボットを組み合わせる
□ その組み合わせにより大規模で複雑なタスク実行のための技術を開発
□ 一つのタスク、一人で10体のアバターをアバター1体と同様に操作できる技術を開発

といったことが提唱されています。

つまりはサイバネティック・アバターを誰しもが利用できる社会の実現が目標となっているようです。

とりわけ医療福祉従事者である筆者が、ムーンショットのターゲットとして気になったのが、サイバネティック・アバターによってもたらされる『生活』についてです。

ムーンショットのターゲットとロボ技術

さてサイバネティック・アバター社会における『生活』ですが、その未来社会を読み解く資料は前述した内閣府ムーンショット目標1に掲載されています。

同ウェブサイトを読み進めていくと、『研究開発構想』といった資料をまとめてpdfで発行して公開してくれています。

『ムーンショットが目指す社会 研究開発構想』

この資料で自身が気になったのは『研究開発の方向性』といったチャプター。

そこでは挑戦的研究開発を推進すべき分野・領域のひとつとして『介護』分野を掲げています。

自身も理学療法士として医療福祉従事者であるため、サイバネティック・アバター社会と介護との関連が気になったので読み進めてみました。

そんなサイバネティック・アバター社会と介護分野との関連でキーとなるのが、それらの現行技術と未来構想です。

□ 医療及び介護福祉と空間、時間制約からの解放
□ 医療及び介護福祉と身体の成約からの解放
□ 医療及び介護福祉と脳の成約からの解放

次章では現場で医療福祉に携わっている筆者が、その現状と未来について考察していきます。

ムーンショット目標と医療及び介護福祉

医療及び介護福祉と空間、時間制約からの解放

最初に考察していくテーマは『医療及び介護福祉と空間、時間制約からの解放』についてです。

現在、筆者は施設生活の利用者へ向けたリハビリを実施する理学療法士としても勤務しています。

その勤務でおいて実感するのは『時間制約』。

たとえば施設利用者の方は居室配膳でなければ、朝食はみなさん食堂へ集まって摂取してもらいます。

そんな朝食の呼びかけの際、すぐ起きられる人もいれば、なかなか起きられない人もいます。

なかなか起きられない方を誘導する際、その方の離床ペースに合わせるとかなりの時間を要します。これは誤解の無いように述べておくと、利用者のペースへ合わせて誘導するのが正解なので、時間を要すること自体は構いません。

ただ自身はそんな『時間制約』を、利用者の満足度やペースを損なわずに何とかできないものかと考えたりします。

そこでサイバネティック・アバターの活用です。

今でも『センサーマット』という福祉用具が存在します。これは一人で離床された方の転倒予防へ使用されることが多い福祉用具ですが、この道具をもっとアップデートできないものかと筆者は考えます。

たとえば『ベッドの加重移動から離床を検知するセンサーマット』などです。

人はベッドで寝ているとき加重は全身へ分散されます。ですがベッドから起き上がり足を下せば、加重は臀部へ集中します。

これからサイバネティック・アバター社会でそんなセンシング技術が導入されれば、利用者が起きたタイミングで誘導できるので、朝食誘導の際の時間制約は少なくなるかもしれません。

医療及び介護福祉と身体の成約からの解放

次に考察していくテーマは『医療及び介護福祉と身体の成約からの解放』といったテーマです。

現在、介護分野でもいろんな福祉用具が導入され介護負担軽減傾向にあるものの、今なお現場で働く介護従事者の身体負担はまだまだ重いままです。

自身の同僚でも腰痛を抱えながら働いている人もいます。

とりわけ介護負担で重い部分として『起き上がり、立ち上がり、車いす移乗』といった部分が挙げられます。

最近では電動ベッドのギャッジアップで起き上がりをサポート。また、トランスファーマシンなるものも開発され、立ち上がりや車いす移乗も身体固定を介助する程度で出来るものも登場してきました。

ですが現場導入にあたり、まだまだ介護者教育やコスト面で苦労するところもあるというのが筆者の意見です。

また、リハビリの観点から『自立支援』も考えると、完全に介護してしまって自立支援の機会損失にもつながっているのではないかとも考えます。

そこで自身がサイバネティック・アバター社会では更なる『ロボットアタッチメント』技術の向上に期待します。

たとえば前述したセンシング技術に加えて、電動ベッドやトランスファーマシン機能をシームレスにした福祉道具が登場すれば、介護負担は大幅に軽減できることになります。

また、理学療法士である自身のような医療従事者が、利用者の身体機能を定量化して、必要な介助のみを実施するロボットを開発できれば自立支援にもつながります。

ヒトの身体構造は単純ではありませんが、そんな福祉用具の登場と現場導入もあと10年以内に進んでいくとも筆者は考えています。

医療及び介護福祉と脳の成約からの解放

最後に考察するテーマは『医療及び介護福祉と脳の成約からの解放』。

このテーマにおける脳の成約に関して、研究開発構想でも言及されている『ストレス耐性』機能を中心にサイバネティック・アバター技術の寄与可能性を考えてみます。

たとえば施設利用者では認知症の方が多数おられます。

そういった利用者のコミュニケーション表現としては『穏やかに話す』人もいれば、『感情的に話す』人もいます。

また『同じ話を繰り返す』認知症の方もおられます。

自身もそうですが、そういった方々を相手とする感情労働者は、そのコミュニケーションにおいて『自身の感情をコントロール』して、『相手の不穏が増悪しないよう相手の感情をコントロール』する必要性があります。

元々で感情豊かにホスピタリティあふれる感情労働者であれば、それらの対応は苦にしないかもしれません。

ですが、そんな感情労働へストレスを抱える医療福祉従事者がいるのも事実です。

そんな感情労働ですが、自身はサイバネティック・アバター技術が活用できると考えています。

昨今、chatgptなどコミュニケーションの得意なAIが出現し、目覚ましいスピードで進化しています。

たとえばコミュニケーションが得意なロボットを介護現場に導入してみてはどうでしょうか。

認知症患者は自身の訴えをいついかなる時でも主張して、それを聞いてほしいと願う傾向があります。

そんな訴えは傾聴、そして必要な声かけができるコミュニケーションロボットがいればそれを解決してくれるかもしれません。

そして現存するヒトのようなロボットが感情労働を代替して、介護者の負担が軽減する社会はもうすぐそこまで来ています。

ムーンショット目標と未来

ムーンショットにみる世界の社会課題

さて、ここまで内閣府の提唱するムーンショット構想について考察してきました。

ここでもうひとつ踏み込むと、実はこの構想と介護分野導入における課題設定は、実は世界へ発信していけるものではないかということ。

実は少子高齢化の波は日本だけに留まりません。

先進国でも少子高齢化の傾向が出ている国も多数あり、少子化対策や移民政策で対応しようとする国も存在します。

ですが世界の人口は増えつつも限りあるものであり、たとえば介護リソースとしてヒトを捉えたとき限界が近づいてくるかもしれません。

そこで代替手段として注目されているのがサイバネティック・アバター技術。そしてそれを提唱して進めているムーンショット構想とも言えます。

結論を言えば少子高齢社会の先駆者として、日本は世界に先駆けて高齢社会をサイバネティック・アバター技術で対応することで、世界の社会課題解決につなげられる可能性を秘めているともいえます。

Society 5.0と未来について

研究開発機構の資料では、『Society 5.0 時代のサイバー・フィジカル空間で自由自在に活躍するものを目指す。』との言及もなされています。

これも理学療法士という医療福祉従事者の立場からすると、なかなか良い目標であると考えています。

たとえば人は病気、事故などでいろんな障害を負う可能性があります。

そして障害を負うと、歩けなくなって活動範囲が狭まったり、それに伴って閉じこもりがち生活になってしまう方もおられます。

ですがSociety5.0時代のサイバー・フィジカル空間がより近づき、その技術を享受できるようになれば、自身の身体能力などに関わらず社会活動を拡大することが出来ます。

数年前まで病院で臨床、そして現在は施設で利用者を相手するリハビリに従事する筆者ですが、そんなSociety5.0時代到来に備えて、フィジカル成約が取っ払われた時代の到来に準備しておこうと考えています。

サイバネティック社会を実現する技術

さて、ここまででムーンショット計画目標、それらを実現する技術のイメージがついたと思います。

そしてその計画目標を実現できるであろう技術は、もう既にあったりします。

それも日本の研究者によって技術開発が進んでいます。

そんな技術のひとつが玉城 絵美 氏の開発した『ボディシェアリング技術』。

彼女の開発したその技術は、時間や空間といった制約を超えて、社会全体で感覚を共有できるというすごいもの。

きっとその技術はムーンショット目標で掲げるサイバネティックアバター社会へ向けて、多大な貢献をもたらすものと考えています。

そんなボディシェアリング技術について、筆者の理学療法士という立場から医療的可能性を考察したり、そんな医療にもこだわらない大きな可能性と未来示唆についても記事にしてみました。

ぜひ、近い将来もたらされるサイバネティックアバター社会の準備も兼ねて、ご一読ください。

玉城絵美氏のボディシェアリング技術の医療可能性を理学療法士が解説

ムーンショット目標から未来を逆算して、これからの仕事の有り方や生活に備えよう。